若くして資産を築き早期退職を目指す「FIRE」がブーム。しかし、実際にFIREを果たしたものの「こんなはずじゃなかった」と後悔やモヤモヤに襲われてしまう人も少なくない。FIRE後に「心から幸せになる人」と「孤独と退屈に苦しむ人」の差はどこにあるのか。2021年に44歳でFIREを果たし、現在はコミュニティ「FIREテラス」を運営する寺澤伸洋さんに、FIRE達成後に直面するリアルの”光と影”について話を聞いた。(木村香代、ダイヤモンドZAi編集部)

寺澤伸洋(てらさわ・のぶひろ)●灘高校、東京大学を卒業後、日系メーカー、外資系大手を経て2021年に44歳でFIRE。作家活動を楽しむかたわら、「遊ぶように生きる」をモットーに毎月リアル交流会開催&オンラインサロン『FIREテラス』を運営。著書『ぶっちゃけFIRE』『君たちはFIRE後どう生きるかシリーズ』のほか多数。

会社を辞めた瞬間の開放感と
その後にやってくる「最初の壁」

「会社を辞めた日の翌朝は『なんて幸せなんだろう』としみじみ思いました」

 FIREを果たした直後の心境を、寺澤さんはそう振り返る。大手外資系GAFAでの部長時代は常に頭の片隅に仕事のタスクや責任がこびりつき、脳のリソースを奪われ続けていた。その縛りが完全に消え去り、「朝起きてどこにも行かなくていい」「何の責任も負わなくていい」という状態は、まさに最高の心地だったという。

 しかし、退職からしばらくたつと、多くのFIRE達成者と同様の「第一の壁」が訪れる。長年叩き込まれた「朝起きてどこかへ行き、何かをする」という習慣が急になくなったことで、理由のない罪悪感や落ち着かなさを覚えるようになったのだ。そして、その違和感に慣れてくると、今度は「コンテンツの消費」に走るようになる。朝起きてYouTubeを見たり、ゲームや漫画、動画配信サービスを片っ端から楽しんだりする日々だ。

 だが、それも長くは続かない。

「僕の場合は3カ月ほど経過したところで『コンテンツの消費だけじゃ満足できない』と気づいたんです。『あと10年、20年、ずっと朝起きてYouTubeや漫画を見て過ごすのだろうか』と強烈な焦りに襲われました」

 寺澤さんはFIRE直後に強い孤立感への危機感を覚え、自らX(旧Twitter)などを通じて同じFIRE達成者に積極的に絡みにいき、会いに行ったという。

会社員時代の友達は「ただの同僚」だった
FIRE後に直面する「人間関係の喪失」

 FIRE後にモヤモヤや後悔を抱えてしまう最大の原因、それは「孤独」だ。

 会社員時代、飲みに行ったり、仕事時間の多くを共にして「唯一無二の仲間だ」と思っていた同僚たちも、FIREすると生活リズムも考え方も合わず、1年に1回も会わなくなる。会社の友達は、会社を辞めたら「ただの元同僚になる」のである。

 会社員の生活を長年続けてきた人ほど、交友関係のほぼ100%が会社関係者で占められている。そのため、FIREした瞬間に「平日の昼間に遊べる友達が誰もいない」という事態に陥る。

 それに耐えかねた人が、人恋しさから「FIRE卒業」と称して再び会社員に戻るケースもあるが、寺澤さんはこれに懐疑的だ。

「そもそも会社はしゃべりに行く場所ではなく、仕事をしに行く場所です。人恋しさを埋めるためだけに再就職するのは本末転倒と言えます。FIRE後の人間関係の激変に順応できるかどうかが、幸せになれるかどうかの大きな分岐点ではないでしょうか」