「日本の家電メーカーは、なぜ世界で勝てなくなったのか?」――。かつて海外の街には、ソニーやパナソニック、日立といった日本企業の看板があふれていた。ところが今、テレビや白物家電の生産・販売では中国勢の存在感が圧倒的だ。日立の家電事業をめぐる再編や、ソニーのテレビ事業の見直し、家電量販店の連携・統合の動きも相次いでいる。
しかし、ジャーナリストの西田宗千佳さんは「日本メーカーだけがダメになったわけではない」と指摘する。家電が世界的な低収益ビジネスになった理由、中国メーカーが強くなった構造、そして量販店がメーカーを抱え、住宅のリフォーム事業に力を入れる背景とは。家電産業の大転換を読み解く。(丸山紀一朗、ダイヤモンドZAi編集部)
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「日本メーカーだけが負けた」は誤解?
世界で家電ビジネスが成り立たなくなったワケ
――かつて日本の電機メーカーは世界で大きな存在感がありました。しかし今は、家電事業の売却や再編が相次いでいます。なぜ、ここまで状況が変わったのでしょうか?
西田宗千佳さん(以下、西田) 正確に言うと、日本だけがダメになったのではありません。世界中で、家電ビジネスそのものが成り立ちにくくなり、中国メーカーが中心になった、というのが実情です。
韓国のLGやサムスンは比較的元気ですが、米国や欧州でも家電事業の売却や再編は進みました。欧米系の大手メーカーも残っていますが、かつてに比べて中国企業の存在感が大きくなっています。欧米のブランドも中国企業に売却され、中国メーカーがそのブランドを使って世界に家電を供給する形が増えました。
――なぜ、家電は世界的に成り立ちにくいビジネスになったのでしょうか?
西田 一言でいえば、利益率が低いからです。1980~90年代までは、冷蔵庫もテレビも掃除機も「1家に1台」という家庭が多く、普及の余地がありました。その後、「1部屋に1台」の時代までは販売台数を伸ばせましたが、家庭内に2台、3台と行き渡れば、残るのは買い替え需要だけです。
すでに必要な機能が満たされているので、買い替えの際には安い製品が求められます。部品を世界中から調達できるようになり、2000年代以降は生産コストの低い中国へ製造拠点が移りました。そこで中国企業が技術やノウハウを蓄え、自社ブランドで製品を売り始めた。ブランド力や技術力があっても、低い利益率で価格競争を続ける欧米・日本企業より、中国企業のほうが圧倒的に有利になったのです。
2008年9月のリーマンショックも大きな転機でした。景気悪化や業績悪化を受け、欧米や日本の企業は高収益事業への選択と集中を進めた。利益幅の小さい家電を世界で大量に売るビジネスは維持しづらくなり、一部の欧米企業では撤退やブランド売却が進み、中国企業が欧米ブランドを取得する例も増えました。
――日本企業は、国内市場に絞ることで生き残ろうとしたのですか?
西田 そうです。世界で売るのが難しいなら、日本だけで売ろうと事業を縮小しました。一見すると利益率を高める方法に思えますが、市場規模が小さくなれば、収益を維持できる製品も減ります。さらに、ビデオカメラ、ビデオデッキ、音楽プレーヤー、コンパクトカメラなど、家電メーカーが得意としていた多くの製品がスマートフォンに取り込まれました。
家電メーカーが売れる製品そのものが減ったわけです。日本企業の技術が突然なくなったのではなく、技術を生かして利益を出せる市場が小さくなっていった、と考えたほうが実態に近いと思います。
レグザが中国企業の傘下で強くなった理由
テレビの価格の「約半分」を握る部品とは
――東芝のテレビ「レグザ」は、中国のハイセンス傘下に入った後もブランドが残っています。
西田 東芝のレグザは、日本のテレビ市場で高いシェアを持っています。中国企業の部品調達力や世界規模の販売力を生かしながら、日本人の技術者が日本向けのテレビを作る。そうすると、単独で事業を続けるより利益率を高めやすく、製品のバリエーションも広げやすいのです。
テレビは、製造コストの半分程度をディスプレイパネルが占めます。世界中で大量にテレビを売る中国メーカーは、パネルを安く大量に調達できる。一方、日本メーカーは販売台数が少ないため、同じパネルでも調達価格が高くなります。仮に中国メーカーが「10」で仕入れられるものを、日本メーカーは「15」や「20」で買うことになれば、それだけで価格競争は極めて不利になります。
――ソニーがテレビ事業を切り出し、中国メーカーとの協業を進めるのも、同じ理由ですか?
西田 基本的な考え方は同じです。ソニーのテレビを求める人は日本にも海外にもいるので、ブランドをやめる必要はありません。ただし、テレビ単独で十分な利益を出すには、世界規模の調達力を持つ企業と組むほうが合理的です。
現在のソニーは、映画、ゲーム、音楽といったコンテンツ、スマートフォン向けを中心とするカメラセンサー、業務用の映像・音響機器などが事業の柱です。日立も新幹線や企業向けシステムなど、BtoB(企業向け)事業が中心です。パナソニックも企業向けの機器やシステムへ軸足を移しています。
つまり、かつての家電メーカーは、もはや家電だけで成り立つ会社ではありません。持っている技術や権利を、より利益率の高い事業に振り向けた結果、日立やソニーは企業として立て直した。そのため、家電事業を手放したり切り出したりしても、会社全体の株価には以前ほど大きな影響を与えなくなっています。