ブランドより「安さ」と「新しさ」の時代へ
日本勢がまだ強い家電は何か

――家庭にある家電の多くは、すでに中国で作られているのでしょうか?

西田 中国製ではない家電を探すほうが難しい状況です。テレビ、掃除機、小型家電、スマートフォンなど、ブランドが日本や欧米でも、製造は中国という製品が非常に多い。ロボット掃除機では、中国メーカーの競争力が高く、米国発のルンバも中国勢との競争で苦しくなりました。バルミューダのように日本で企画する企業も、製造は中国が中心です。

 中国にはハイセンス、TCL、ドリーミー、ファーウェイなど、規模の大きなメーカーがあります。ファーウェイはスマートフォンで築いた店舗網やブランド、スマートホームのエコシステムを生かし、提携先の商品も含めて掃除機などへ取扱分野を広げています。中国国内の店舗に自社の家電をまとめて並べれば、販売やマーケティングも効率化できます。

――かつては家電を作るのに大きな研究所や高度な技術が必要でした。今は、どの企業でも簡単に作れるのですか?

西田 「良いもの」を作るのは今も大変です。ただ、「安いもの」を作るハードルは下がりました。テレビなら、画質や音質を突き詰めるノウハウはソニーやパナソニック、サムスン、LGなど長年作ってきた企業が強い。一方で、消費者が画質よりも「100インチが欲しい」「小型で安いほうがいい」「動画配信が見られれば十分」などと考えるなら、豊富なサイズと低価格を用意できる中国メーカーが有利です。

 ロボット掃除機のような新しい家電では、投入している人員、開発費、データ、ノウハウの面で、中国メーカーが日本企業を上回るケースもあります。過去から蓄積してきた画質や音質の技術と、AIやセンサーを使う新しい家電の技術は別物です。新しい市場では、新しいノウハウを持つ企業が強くなります。

――日本メーカーが今も強い分野はありますか?

西田 炊飯器は、比較的日本メーカーが強い分野です。日本人の米の好みを理解し、毎日食べるものだから少し高くてもおいしさを重視する消費者がいる。タイガー魔法瓶や象印マホービンのような専業色の強いメーカーが、長年のノウハウを生かしています。

 ただし、家電全体で見ると、そうした分野は多くありません。従来型の掃除機からコードレス型、ロボット型へ主役が移った瞬間に、過去の強みがそのまま次の市場の強みになるとは限らないのです。

量販店がメーカーを買う時代
「大量仕入れ・ポイント還元」の次に稼ぐもの

――一方、家電量販店でも再編が進み、ノジマが日立の家電事業を傘下に収める動きや、ヤマダホールディングスとエディオンの経営統合に向けた動きなどが話題になっています。量販店には何が起きているのでしょうか?

西田 家電量販店は、もともと日本の家電メーカーの販売網と密接につながって生まれました。1970年代頃までは、メーカーが街の電器店を系列化し、自社製品を売ってもらう仕組みでした。店舗ごとの販売量は少ないので大幅な値引きはしない代わりに、設置や修理など、地域の顧客との関係で商売が成り立っていました。

 1980年代に入ると、大量仕入れと低価格販売を武器に家電量販店が台頭しました。さらに1989年にはヨドバシカメラがポイントカードを導入し、顧客を囲い込む仕組みが広がっていきました。次も同じ店で買えば得になる仕組みを作り、規模を拡大したのです。

 ところが、日本メーカーが大量の家電を供給する時代が終わり、カメラ、音楽プレーヤー、映像ソフト、ゲームソフトなどもスマートフォンや配信に置き換わりました。量販店は「大量に仕入れて安く売る」メリットと、売り場に並べる商品の両方を失いつつあります。

――そこで、量販店が自ら家電を作るようになったのですか?

西田 自社で商品を企画・調達し、プライベートブランド(PB)として売る重要性が高まりました。中国のメーカーと交渉すれば、量販店でもオリジナル家電を作れます。さらに品質や開発力を確保するため、メーカーそのものを傘下に置く動きが出てきた。ノジマが進めている日立家電事業の子会社化は、その典型といえます。

 メーカーを持たず、中国企業から仕入れてPBを売る例としては、ドン・キホーテの「情熱価格」やゲオがあります。ゲオはDVDレンタル市場が縮小した後、中国メーカーからヘッドホンやテレビなどを仕入れ、自社ブランドで販売するようになりました。従来とは違う流通経路を作ることで、低価格の家電を店頭に並べているのです。

――量販店が住宅のリフォーム事業に力を入れるのも、家電だけでは稼ぎにくいからですか?

西田 そうです。家のリフォームを受注すれば、エアコン、トイレ、照明、インターホンなど、家電や住宅設備をまとめて販売できます。地域密着型のロードサイド店にとっては、商品の単品販売よりも、工事や設置を含めて家庭全体を相手にするほうが収益を作りやすい。エディオンなどがリフォームを重視してきたのは、そのためです。

 都市型のヨドバシカメラやビックカメラと、ロードサイド型のヤマダデンキ、エディオン、ノジマ、コジマでは、そもそも売り方が違います。駅前店では、ヘッドホンやカメラを見比べて買う需要がある。一方、ロードサイド店では大型テレビや冷蔵庫、リフォームなど、地域の家庭に深く入り込む商売が重要になります。

EC時代でもリアル店舗は消えない?
家電株の成長を左右するのは「家電以外」

――米国や欧州では家電量販店が大幅に減ったそうですね。日本の量販店も、いずれEC(電子商取引)に置き換わるのでしょうか?

西田 海外では、ECの拡大を受けて家電量販店の淘汰や店舗削減が進み、一部の大手チェーンは破綻・撤退しました。欲しいテレビが決まっているなら、Amazonなどで注文すればいい。日本はまだ量販店へ行く習慣が残っていますが、世界的に見ると、家電量販店の存在感がここまで大きい国は多くありません。

 ただ、リアル店舗にしかない価値もあります。例えば「スマホケース」です。日本の量販店には、店頭に数百種類のケースが一度に並びます。ECは在庫を大量に持てても、画面で一度に見える商品は限られる。欲しいものが明確なら検索で買えますが、「たくさんの中から偶然、気に入ったものに出会う」買い方は実店舗のほうが向いています。

 日本を訪れた外国人が、家電量販店や雑貨店で多彩なスマホケースを選ぶのを楽しむのも、こうした売り場が海外では珍しいからです。家電そのものの構造が変わっても、比較し、発見し、その場で買う体験には価値が残ります。

――投資先として見た場合、家電メーカーや量販店には成長余地があるのでしょうか?

西田 家電メーカーの株価が「家電」で大きく動く時代は、終わったと思います。日立はBtoB事業、ソニーはゲーム、映画、音楽、半導体など、家電以外の事業が企業価値を左右します。量販店も、統合や買収への期待で株価が動くことはあっても、家電販売そのものに大きな成長性を期待されているわけではありません。

 家電は「売れない産業」ではありません。例えばテレビは、故障や結婚、引っ越しなどを機に買い替え需要が生じます。ただ、壊れにくくなり、各部屋に置かれていたテレビはスマートフォンやパソコン用ディスプレイに置き換わりました。台数が大きく伸びない中で、中国メーカーの低コストに対抗して利益を出すのが難しいのです。

 今後、家電で新しいブレークスルーが起きても、いったん市場から退場した日本の大手メーカーが主役になる可能性は高くありません。ロボット掃除機やアクションカメラのような新しいカテゴリーでは、現在、中国メーカーが高い競争力を示しています。日本企業の成長を見るなら、「家電を売る会社」という昔のイメージではなく、各社が家電以外にどんな強みを持ち、事業を組み替えているかを見る必要があります。

*スポーツやアウトドアなど激しい動きのある場面でも、ブレずに臨場感のある映像を撮影できる小型のビデオカメラ。

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【マンガ】恋する株式相場! 「家電業界くっつき物語!」

「ダイヤモンドZAi」2026年9月号の連載マンガ「恋する株式相場!」(ホイチョイ・プロダクションズ著)より。今回のテーマは「家電メーカー・家電量販店」。画像をクリックでマンガに遷移します。
「ダイヤモンドZAi」2026年9月号の連載マンガ「恋する株式相場!」(ホイチョイ・プロダクションズ著)より。今回のテーマは「家電メーカー・家電量販店」。画像をクリックでマンガに遷移。

本記事は2026年8月16日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。