「日本のほうが技術力が高い」はもう通用しない
中国は“世界の工場”から世界ブランドへ

――以前は「中国は人件費が安いが、技術は日本にある」と言われていました。今も日本に技術面の優位性はあるのでしょうか?

安蔵 中国の技術力は、すでに非常に高いです。私が香港の展示会で見た人型ロボットは、大勢の来場者を滑らかによけながら歩き、カンフーのポーズを取ったり、横になった状態から立ち上がったりしていました。紙コップをつかみ、コーヒーメーカーに置き、ボタンを押して、出来上がったコーヒーを人に渡すといった一連の動作までこなします。

 日本企業が中国の工場に生産を委託する際、日本人の担当者が現地へ行き、品質管理や生産管理の方法を細かく伝えてきました。要求どおりの製品を作ってもらうためには必要なことですが、無論、その過程で中国側にも製造や品質管理のノウハウが蓄積されます。

 かつては日本のホンダの「ASIMO」などが人型ロボットの象徴でしたが、中国企業の技術は急速に進化しています。「日本のほうが技術力で上だ」と単純に考えるのは、もう現実的ではありません。

――中国企業は下請けにとどまらず、自社ブランドで世界を狙っているのですか?

安蔵 もちろんです。ハイアール、ハイセンス、TCLなどは、日本市場でもブランド力を高めようとしています。「日本で売れている」「日本の消費者に評価されている」という実績が、東南アジアなどで商品を売る際の信用につながるからです。

 中国企業にとって日本市場は、売上を得る場所であると同時に、アジアでブランドを広げるためのショーケースでもあります。TCLがソニーとホームエンターテインメント分野で戦略提携することも、世界市場で規模を確保する必要性の表れといえるでしょう。

日立は「壊れない」、ソニーは「かっこいい」
モノづくりの哲学が強みにも弱みにもなる

――日本企業の家電は「高品質で長持ちする」というイメージがあります。そうした強みも、競争力にはならないのでしょうか?

安蔵 企業ごとに、モノづくりの哲学が違います。例えば日立は、鉱山で使う電動機や機械を作るところから始まった会社です。鉱山の奥で機械が壊れれば大変ですから、「とにかく壊れないものを作る」という思想が根底にあります。日立の家電が質実剛健で、長持ちするという印象につながっているのでしょう。

 パナソニックには、松下幸之助氏の「水道哲学」があります。水道の水のように、良いものを安価で広く行き渡らせ、人々の生活を豊かにするという考え方です。創業期に、電球用のソケットから電源を分岐させる二股ソケットを安く提供したことにも、その思想が表れています。

 ソニーは、薄く、軽く、かっこよくすることが得意でした。「ウォークマン」はその象徴です。企業の成り立ちや哲学によって、耐久性、価格、機能、デザインのどこを重視するかが変わります。

――日本企業は品質や機能を追求しすぎて、オーバースペックになった面もありますか?

安蔵 それはあると思います。昭和の家電は、同じ機能ならより薄く、より軽くする。それが難しければ、さらに多くの機能を盛り込むという発想でした。消費者が使いこなせないほど多機能になっても、「必要十分」という考え方が弱かったのです。

 対照的なのがアイリスオーヤマです。まず「誰に、いくらで売るか」を決め、必要な機能だけを載せる。価格に収めるため、外装の素材や質感は割り切ることもあります。高級感では大手メーカーに及ばなくても、消費者が求める機能を手頃な価格で提供する。古いメーカーとは違う発想で市場を切り開きました。

 ただし、安ければいいわけでもありません。コロナ禍で家にいる時間が長くなり、家電のデザインを重視する人も増えました。毎日目に入る家電が美しければ、気持ちが上がる。それは絵を部屋に飾るのと同じで、機能とは別の価値です。

 バルミューダは、2010年の扇風機「GreenFan」や、2015年の「BALMUDA The Toaster」で、高級扇風機や高級トースターという市場を作りました。単に外観をきれいにしたのではなく、風の心地よさやパンを焼く体験まで含めて、製品全体を一つの思想で設計したから支持されたのです。

 大手メーカーにも優れた技術はあります。パナソニックのトースターには、バルミューダが登場する以前から高度な自動制御技術がありました。しかし、技術の価値を外観や操作方法を含めて分かりやすく伝えきれなければ、消費者には届きません。これから重要なのは、機能とデザインを別々に考えるのではなく、使う人の体験、つまりUX(ユーザー体験)としてまとめることです。

ヤマダとエディオンが統合へ
ノジマは“家電のユニクロ”になれるのか

――メーカーだけでなく、家電量販店でも再編が進んでいます。ヤマダホールディングスとエディオンの経営統合を、どう見ていますか?

安蔵 背景には、急成長して存在感を高めるノジマへの警戒があると見ています。ヤマダデンキは全国に店舗を持つ一方、ノジマは主に首都圏を中心に店舗網を広げながら成長してきました。エディオンは中国・四国地方や近畿地方などに強く、ノジマとは商圏の重なりが比較的少ない。もし両社が組めば、ヤマダにとって大きな脅威になり得ます。

 ヤマダとエディオンには、住宅やリフォームを含めて暮らし全体を支えるという共通点もあります。エディオンが持つ地域密着のノウハウと、ヤマダの全国規模の店舗網を組み合わせるシナジーは考えられます。ただ、攻めの統合というよりも、「エディオンがノジマ側へ行くことを防ぎたい」という防衛的な意味合いも大きいのではないでしょうか。

――一方のノジマは、日立ブランドの家電事業を担う新会社を傘下に収める予定です。何を目指しているのでしょうか?

安蔵 ノジマは、家電の「製造小売」、いわば“家電のユニクロ”を目指しているように見えます。すでにVAIOをグループに持ち、さらに日立ブランドの冷蔵庫、洗濯機、掃除機などを企画・製造・販売する基盤を得ようとしている。店舗で得た顧客の声を商品開発へ直接反映し、自ら作って自ら売るモデルです。

 プライベートブランドは、仕入れて売るだけの商品より利益率を高めやすく、他店との差別化にもなります。「この商品はここでしか買えない」となれば、来店する理由にもなる。ニトリやドン・キホーテが家電の自社ブランドを増やしているのも同じ理由です。

 ただし、ノジマの挑戦には難しさもあります。ユニクロは衣料品を幅広く自社企画できますが、家電は冷蔵庫、洗濯機、テレビ、パソコン、スマートフォンなど、製品ごとに必要な技術も供給網も大きく異なります。日立の家電事業を得ても、ノジマの店頭に並ぶすべての家電を自社で作れるわけではありません。

 さらに、日立ブランドの家電をノジマ以外の量販店がどこまで積極的に扱うかという課題もあります。ライバル企業が傘下に持つブランドの商品を、自社の店頭で強く売りたいと思うか。製造と小売を一体化することで得られる強みが、販路を狭める弱みにもなり得ます。

――家電量販店は、今後どのように生き残っていくのでしょうか?

安蔵 競争相手は、もう家電量販店だけではありません。ニトリのような家具店、ドン・キホーテのようなディスカウントストア、ネット通販も家電を売っています。家電量販店同士だけを見ている場合ではないのです。

 生き残り方はいくつかあります。ヤマダやエディオンのように住宅・リフォームまで扱い、暮らしを総合的に支える。ヨドバシカメラのように駅前の巨大店舗へ圧倒的な品ぞろえを集め、家電専門店としての強さを磨く。ビックカメラのようにプライベートブランドや新しいサービスを増やす。そしてノジマのように、自らメーカー機能を持つ製造小売へ踏み込む。

 かつては「良い製品を作れば売れる」と考えられました。しかし今は、技術力だけでなく、商品企画、デザイン、製造、ブランド、販売、アフターサービスまでをどうつなぐかが問われます。日本の家電業界の再編は、単なる企業数の減少ではありません。家電メーカーとは何か、家電量販店とは何か、その境界線そのものが変わり始めているのです。

>>「家電メーカー・家電量販店」についてマンガで読む!
【マンガ】恋する株式相場! 「家電業界くっつき物語!」

「ダイヤモンドZAi」2026年9月号の連載マンガ「恋する株式相場!」(ホイチョイ・プロダクションズ著)より。今回のテーマは「家電メーカー・家電量販店」。画像をクリックでマンガに遷移。
「ダイヤモンドZAi」2026年9月号の連載マンガ「恋する株式相場!」(ホイチョイ・プロダクションズ著)より。今回のテーマは「家電メーカー・家電量販店」。画像をクリックでマンガに遷移。

本記事は2026年8月19日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。