上限額を引き上げ&「年間上限」を新設
長期の療養者に配慮した制度設計に

 高額療養費制度の改正については石破政権の時代から議論されていた。年4回以上、上限に達する人(後述の「多数回該当」)への負担額の見直しを盛り込んでいたが、がん患者団体等から負担の大幅増の懸念の声を受け見送りに。今回、高市政権で再度議論を行い、改正が実施された形だ。

 今回の改正点は大きく3つある。河村さんは「長期療養者や1カ月で高額薬剤を処方された人などにとっては負担が軽減しました」と総評する。下の表を見ながら改正点を確認していこう。

2026年8月、2027年8月以降の高額療養費制度の変更点
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2026年8月、2027年8月以降の高額療養費制度の変更点
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 まずは2026年8月の改正点を確認しよう。改正の1つ目は、すべての年収区分で月額上限が引き上げられた。年収300万円の人はこれまで5万7600円だった上限が、3900円引き上げられ、6万1500円に。年収500万円の人は8万100円+αが5700円引き上げられ、8万5800円+αに上がった。年収が高い人ほど引き上げ額が大きくなっている。

 改正点の2つ目は年間の上限額の新設だ。毎年8月から翌年7月までを対象に、1年間の支払いの上限額が設定される。長期療養者や1カ月で高額薬剤を処方された人などにとっては負担が軽減される改正だ。

 直近12カ月で月額上限に3回達した人は、4回目から月額上限が下がり、支払いの負担がさらに軽減される「多数回該当」という制度がある。年収500万円の人であれば、直近12カ月で支払いが月額上限の8万5800円+αに3回達すると、4回目以降の支払いは上限が4万4400円に下がる。例えば9万円の支払いが12カ月続いた場合<パターン1>では、最初の3カ月の支払いは上限である8万5800円+αに、それ以降の9カ月の支払いは4回目以降の上限である4万4400円となるため、12カ月の合計は約65万7000円だ。

 一方で、8万円の支払いが12カ月続いた場合<パターン2>では、上限である8万5800円+αに達していないため、高額療養費制度の対象にはならず、「多数回該当」に該当しない。したがって、8万円の支払いがそのまま続き、12カ月の合計は96万円になる。

 つまり、長期療養者など高額な医療を受けている人にとっては、毎月の支払いが月額上限に達するか達しないかで年間の負担が大きく変わってしまっていたのだ。

 この「多数回該当」の制度を維持したまま、今回の改正で年間の上限額が新設された。定期的に高額な医療を受けている人へのセーフティーネットがさらに追加されたイメージだ。例えば、年収500万円の人であれば53万円が年間上限となる。先ほどのパターン1も、2も年間53万円に達した時点で支払いがストップするため、どちらも負担減となっている。

年間上限が新設され、年間の支払い額が53万円でストップする!(年収500万円の人の場合)年間上限の新設後の高額療養費制度の支払いのイメージ
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年間上限が新設され、年間の支払い額が53万円でストップする!(年収500万円の人の場合)年間上限の新設後の高額療養費制度の支払いのイメージ

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2027年8月から年収区分が細分化
月額上限が上がる人が多数

 改正点の3つ目は年収区分の細分化だ。2027年8月から実施される。現行の高額療養費制度では、年収約370万円の人と年収約770万円の人が同じ区分となっており、上限も同じ金額となっている。また、年収区分が1段階上がるだけで上限額が約2倍に増加するといった大括りの面もある。年収に応じてもっと適切に負担配分すべきという指摘がこれまで多くされており、ようやく反映されたのだ。

 細分化の内容を見てみると、各年収区分が3つに分かれており、月額上限がそれぞれ新たに定められている。例えば現行の制度では、年収が約370~770万円の人は、月額上限が8万5800円+αだ。それが「約370万~510万円」「約510万~650万円」「約650万~770万円」と3つの年収区分に分けられ、「約510万~650万円」の人は月額上限が9万8100円+αに、「約650万~770万円」の人は11万400円+αに引き上げられることになる。制度設計が精密化されたという面はあるが、多くの人にとっては負担増だ。

 河村さんは「年間を通じて医療費の自己負担が大きい人にとっては、年間上限の新設により負担が軽減される可能性があります。一方、年間上限のメリットを受けない人は、月額上限の引き上げにより負担が増える可能性があります」と指摘する。

 少子高齢化に伴い、高額療養費制度を含め社会保障制度は財源の確保が厳しい状況が続く。その一方で、医療の進歩に伴った治療や薬の高額化が進んでおり、医療費はますます増加する見込みだ。今後も利用者の負担が増える改正が予想される。

「大きなケガや病気をした際に医療費はどれくらいかかるのか、いくら備えておけば安心か」を計算する際にも、高額療養費制度の理解は不可欠。家計に直結する問題でもあるため、日頃より制度の動向や議論はチェックしておくといいだろう。

本記事は2026年9月2日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。