優待新設の波は中小型株にとどまらず
トヨタなどの大企業にまで波及!
優待新設ブームで特筆すべきは、その幅広さだ。2024年以降の優待新設は、時価総額100億円未満の株が全体の51%、100億~1000億円未満の株が36%、1000億円以上の株が12%(合計が100%ではないのは端数処理の関係)。前述の上場維持基準未達に対する危機感から、優待新設による株価対策を図った小型株は多そうだ。一方で、時価総額1000億円超の銘柄も全体の10%超を占めた。国内の時価総額トップ10に入るトヨタ自動車や三井住友フィナンシャルグループといった、誰もが知る大企業も新設銘柄として名を連ねている。
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「東証が定めた上場維持基準を自力で達成できる大企業の優待新設は、株価対策というより、ファン株主育成の意味合いが強いと思います。機関投資家や物言う株主(アクティビスト)からの圧力に対抗するために、自社を長期的に応援してくれる個人株主を増やしたいという経営的な意図があるでしょう。トヨタ自動車の場合、『トヨタウォレット』の残高付与という形で株主と自社サービスの接点を作り、事業への理解を深めるツールにもなっています」(小林さん)
QUOカードの優待新設数がダントツ!
高利回り株も多いが長続きしづらい面も
2024年以降の優待新設で、最も多かった優待品が「QUOカード」だ。対象の店舗で現金とほぼ同様に使える定番の優待品で、新設総数の3割強を占めた(QUOカード以外の品が選べる場合も含む)。また、好みの電子マネーやポイントに交換できる「デジタルギフト」も2024年末から増加傾向で、個人投資家の支持を集めている。ただ、ここで注目すべきなのは、どちらもその企業の事業との関連性が基本的にないことだ。
「QUOカードやデジタルギフトを優待品とする場合、他社との差別化が利回りに偏ってしまいます。それらを優待品とする新設が相次ぐ環境下では、高い利回りを維持しないと投資家に選んでもらえません。2025年は新設時の優待+配当利回りが10%を超える『超高利回り銘柄』が多数登場し話題を呼びました。ただ、優待にかかるコストは販管費などで計上されるため、業績に直接影響を及ぼすことがあります。高い利回りの維持が業績の逆風となり得るため、優待が長続きしない構造に陥りやすいのです。
また、2024年以降に無配で優待を新設している銘柄も散見されました。配当は法律で上限が決められており監査も入りますが、優待はそういった縛りが緩い。自由度の高さから、優待を株価対策に都合よく使っていないか注視する必要があります」(小林さん)
実際、2024年以降に新設を行った株のうち7銘柄が、新設後2年程度で優待を廃止した(上場廃止に伴う優待廃止は除く)。それらの銘柄の多くは、今期の配当予想が0円や非開示だった。今後も無配銘柄の優待廃止が続く可能性があり、特に利回りが高い場合は注意が必要だ。
新設ブームは落着く方向へ
ただ次の波が来る可能性も!
優待新設ブームの今後について、小林さんは「ペースは落着いてくる」と予想する。
「前述の上場維持基準を達成するための対策として優待新設した銘柄は、2024年度の経過措置、2025年度の改善期間に焦点を当てていたはず。現在、これらの猶予期間が順次終了しており、株価対策でこれから優待を新設する意味は失われつつあるため、新設のペースは減速すると考えられます。実際、2026年6月は新設数と廃止数が同数となり、約2年半ぶりに優待株の純増にブレーキがかかりました。
加えて、投資家の目線も変わってきているようです。優待にかかるコスト意識の高まり、優待株が増えたことで目立ちにくくなったことなどから、新設時の株価急騰が以前ほどは見られなくなってきました」(小林さん)
一方で、「新たな波」の予兆もあるとのこと。それが、TOPIXの構成銘柄の見直しだ。旧来はプライム市場の銘柄中心で構成されていたが、間もなく流動性基準を満たすスタンダード市場やグロース市場の銘柄も組み入れる形に変わる。
「2026年8月末の初回基準日やその後の定期入替の基準日に向けて、選定基準をクリアするために優待を新設する動きが出る可能性があります」(小林さん)
株主と企業の双方に恩恵があるかが
長続きする優待を見分けるカギ
最後に、優待株の数が大きく増えた今、投資家はどのように銘柄を選ぶべきだろうか。
「優待株投資のセオリーは長期保有です。理論上、権利落ち後に優待や配当分の株価が下がるため、優待取得だけを狙った短期売買には原則向きません。つまり、長期保有に向く、優待が長続きする株を選ぶべきです。優待が長続きするかどうかは、優待内容が企業と投資家にとって“ウィンウィン”な関係かどうかに着目して見極めましょう」(小林さん)
その好例として、小林さんは良品計画(7453)を挙げる。2023年4月に、「無印良品」での買い物が5%引になるクーポンの優待を新設。そして、翌年2024年5月、割引率を5%から7%に引き上げる優待拡充を発表した。そのリリースには、優待の導入で3年以上の中長期保有者の割合が、導入前の約5%(2022年8月末時点)から約20%(2024年2月末時点)まで高まったというのだ。
「良品計画は数字を見て、長期保有してくれる安定株主の獲得に優待が効果的と判断した上で、拡充を行ったのです。こういう形で、ファン株主作りに本気で取り組んでいる会社は、優待が長続きする可能性が高いでしょう。さらに、自社が運営する店舗で使える優待品である点もポイント。株主は割引によるおトク感を味わえ、企業側は優待の調達コストを抑えつつ、株主兼顧客の来店頻度や購入金額の増加につなげることができます。他にも自社商品や自社サービスなど、自社に関する優待品であれば、株主と企業にとってウィンウィンな関係と言える場合が多いでしょう」(小林さん)
優待新設ブームは、優待株投資の選択肢を増やした。だが同時に、株主優待を一時的な株価対策とする企業の出現により、玉石混交の時代に入ったとも言える。利回りが高い優待株に飛びつく前に、今後も優待が継続できるか、配当の有無、業績の良しあしなどの確認を忘れずに行おう。
本記事は2026年7月15日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。