最初のステップは、スクリーニング。
まずPBRが低い銘柄を粗く抽出する。次にそれらの銘柄の現預金・投資有価証券・賃貸不動産の含み益などの「非事業資産」から「有利子負債」を引いた金額を「時価総額」で割り、スコアが高い順にランキングを作る。シケモクさんはPython(プログラミング)を使って有価証券報告書(EDINET)のデータを自動取得している。
Pythonが分からなくても、「TDnetSearch」という無料のWebサービスの「分析」というページに計算式を入力するだけで、同様のスクリーニングができる。
簡易的な計算式は次の通りだ。
(現金及び預金 + 有価証券 + 投資有価証券 + 賃貸等不動産含み益 - 短期借入金 - 長期借入金)/ 時価総額
大切なのはPBRという簡易指標だけで判断しないこと。PBR0.2倍の会社でも、純資産の大半が工場などの事業関連資産であれば、シケモクさんが求めるキャッシュリッチな銘柄とは異なる。
「時価総額500億円未満なら最低でも2倍、できれば3倍以上は欲しい。500億〜1000億円以上なら1.5倍から2倍程度が基準になります」
ヒストリカルPBRで
「過去と比べて割安か」を確認する
スクリーニングを通過した銘柄について、次に確認するのが過去との比較だ。ヒストリカルPBRやヒストリカルPERのチャートを確認し、現在の株価水準が過去の平均と比べて割安かどうかを見る。
今はChatGPTやGeminiなど生成AIに銘柄名と指標を入力するだけで、ある程度の推移データを出してもらえる。
こうしたプロセスを経て、「過去から見ても今は割安」と確認できて初めて、投資対象として本格的に検討する。
実際のシケモクさんは、スクリーニングで絞り込んだあとは1銘柄ずつ有価証券報告書を頭から読み込んでいく。事業の内容、役員、財務数値、賃貸不動産の時価……気が済むまで調べ尽くすのがシケモク流だ。
シケモクさんの場合は、年に1回、多くて2〜3回しか新規の銘柄を買い付けない。
バフェットが「人生で投資機会は20回しかない」と言っているように、それぐらいの感覚で慎重に機会を見極めているという。
TBSに全力集中投資した理由
――内在価値3.5倍という飛び抜けた割安さ
ここからは、過去に実際に売買した銘柄を基に解説してもらった。
2022年の夏頃、TBSホールディングスに注目した。
当時の内在価値は時価総額の3.5倍。東京エレクトロンの株や、賃貸等不動産の時価(約3000億円)まで考慮すると、飛び抜けた割安さだった。時価総額1000億円超の銘柄の中で、これほど割安な水準の会社は見たことがなかったという。
テレビ局に将来性がないという懸念はあった。確かに若者のテレビ離れは進んでいるが、番組制作コストを削減すれば利益は出せる。米国でもテレビ広告は、雑誌や新聞ほどには落ち込んでいない。Netflixなどへの番組提供も収益源になり得る。赤字を垂れ流しているわけでもなかった。
株価1600円前後で買い始め、同じ時期にテレビ朝日やフジテレビも合わせて3億円超を投入。一時はポートフォリオの半分以上をテレビ局銘柄が占める状態だった。
ところが、その後株価は1450円程度まで下落した。10%安で3000万円近い評価損だ。
「正直、きつかったです。しかし、さらに割安になって期待値は上がっているため、売る理由はない。ひたすら保有し続けました」
そして2023年2月頃、突然株価が上昇し始めた。
三菱地所に数億円を
投じた確信の根拠
2025年1月頃には、三菱地所を大きく買い増した。
当時の株価は2000円前後だったが、1株あたりの不動産含み益を考慮した価値は4500〜5000円とも言われていた。それだけでも半分以下の評価だ。
さらに、東京駅前に建設中の超高層ビル「Torch Tower」が完成すれば単独で1兆~2兆円規模の価値を生み出すと見込まれていた。累進配当と積極的な自社株買いという株主還元方針も明確だった。
「こんな状況で損するなんてありえないと思いました」
もちろん、バリュートラップで長期間動かない可能性もある。とはいえ、配当は増え続けるし、損するシナリオが思い浮かばない。周囲の投資仲間は誰も賛同しなかったが、それでも数億円を投じた。今では三菱地所の株価は4000円を突破した。
目標株価を設定し、
より魅力的な銘柄に乗り換える
売却のタイミングは、二つの基準を持っている。
一つはヒストリカルPBRやヒストリカルPERの上値水準に近づいたとき。過去の高値水準まで上昇したなら、そのあたりで利益を確定する。
もう一つは、より魅力的な銘柄が現れたときだ。保有株が上昇すれば内在価値に近づくため魅力は薄れる。あと20〜30%しか上がらないという状況になったときに、新たに3倍以上割安な銘柄が見つかれば、そちらに乗り換える。実際には上値に達する前に乗り換えるケースのほうが多い。
目標株価は買い付け時に設定するが、決算のたびに見直す。事業価値が変われば適正株価も変わるからだ。
10億円になり、専業投資家としての
スタートラインに立てた
2022年に資産4億円でFIREしてからも、シケモクさんは信用取引を含む集中投資を続け、資産を約17億円まで増やした。目標は年率20%の複利成長。信用取引はリターンを押し上げる一方、暴落時の損失も拡大するため、リーマンショック後に決めた上限を守っている。
資産が17億円になった今も、「金融資産は、株を買うために必要な仕事道具みたいなもの。元本には手を付けず、生活費は配当収入(税引後で年間2000万円以上)の範囲に収めています。資産が増えても生活はあまり変わっていません」
「10億円を超えたとき、ようやく専業投資家としてスタートラインに立てた気がしました。相場環境に恵まれた面も大きく慢心はできません」という。
「1年に1銘柄」を買うため、
毎日スクリーニングを続ける
スクリーニングで候補を抽出し、有価証券報告書を読み、事業価値と非事業資産を積み上げ、過去の評価水準まで確認する。そのすべてを満たす銘柄は、そう頻繁には現れない。
それでも、TBSのように「これほど割安な大型株は見たことがない」という瞬間は、いつか訪れる。そのときに迷わず資金を投じられるよう、日々調べ続ける。派手な売買ではなく、数少ない好機を待つ地道な作業こそが、シケモクさんの資産バリュー投資の核心だ。
資産バリュー投資は、低PBR株や現金の多い会社を機械的に買う手法ではない。スクリーニングで候補を拾った後、資産の中身と換金性、本業の収益力、過去の評価水準まで調べ、それでも内在価値と株価の差が大きい銘柄だけに絞り込む。シケモクさんが新たに買うのは年に1銘柄ほど。数を当てにいくのではなく、確信を持てる機会が来るまで待つ投資だ。
一方で、リーマンショックの経験が示すように、資産の裏付けがあっても株価は想定を超えて下がる。割安さの見極めと同じくらい、信用取引を膨らませすぎず、暴落時にも持ち続けられる余力を残すことが重要になる。
「安い株を見つける力」と「好機まで待ち続ける力」、そして「退場しないための資金管理」。この三つを徹底することが、17億円まで資産を増やしたシケモク流の本質といえそうだ。
本記事は2026年7月19日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。