「決算情報や公開買付け(TOB)、不祥事など、株価に大きな影響を与えそうな情報を指します。これらが“公表”される前に、株式等を売買するとインサイダー取引規制に違反します」

インサイダー取引規制の対象となる重要事実等の具体例
分類 代表的な例
上場会社の
決定事実
  • 株式または新株予約権の発行(自己株式・新株予約権の処分を含む)
  • 自己株式の取得(自社株買い)
  • 株式分割
  • 剰余金の配当
  • 業務上の提携、業務上の提携の解消
  • 固定資産の譲渡または取得
  • 上場廃止等の申請
  • 新たな事業の開始
上場会社の
発生事実
  • 災害に起因する損害、業務遂行の過程で生じた損害
  • 訴訟の提起または判決等
  • 行政庁による処分
  • 主要取引先との取引の停止
上場会社の
決算に関する事実
  • 業績予想、配当予想の修正等
公開買付け等事実
  • 公開買付け(TOB)

※日本取引所グループの「重要事実一覧表」より。投資判断への影響が小さいものは、重要事実等の対象外とする「軽微基準」が設けられている場合もある。

 “公表”と認められる状態については、下記3つのパターンがあります。

(1)   東京証券取引所が運営する適時開示情報伝達システム『TDnet』で公開
(2)   金融庁が運営する電子開示システム『EDINET』で公開
(3)   2つ以上の報道機関に重要事実を伝えて公開した後、12時間が経過

 知っている重要事実が“公表”されれば、株式等の売買が可能になります。

取引金額・利益の大小は関係なし
たとえ大損しても規制違反に!

 さて、インサイダー取引と聞くと莫大な資金が動く取引が想像されますが、金額が小さくても、株数が少なくても違法になります。

「金額や株数の多寡は関係なく、未公表の重要事実を知って売買した時点で規制違反となります。そのため、利益が出たかは関係なく、損が出た場合でも規制違反です。また、『株を買う』ことだけが規制対象ではありません。株価下落につながる未公表の重要事実をもとに、損を回避するために保有株を売った場合も違反になります。現物株を持っていない状態で信用取引の空売りを行うのも規制対象です」

 取引は常にチェックされており、「数万円の取引ならバレないだろう」という考えは通用しません。一方で、従業員持株会での定時定額の継続買付けや、無償で行われる贈与や相続による株式の取得は規制対象ではないとのこと。ただし、持株会への新規加入や購入口数の変更、持株会や贈与・相続で取得した株式の売却などは規制の対象になるので注意しましょう。

投資信託やETFも規制の対象!?
過ちを犯さないための注意点とは?

 ここまでは個別株の話でしたが、複数の銘柄を組入れる投資信託やETFの売買でも注意すべき点があります。

「インサイダー取引規制の主な対象は、上場会社の株式、新株予約権証券、社債のほか、Jリートや上場インフラファンドです。一般に販売されている多くの投資信託やETFは、規制の対象ではありません。ただし、特定の企業群や少数銘柄に集中投資する投資信託やETFは規制違反となる可能性があります」

 集中投資を行う投資信託は、例えばトヨタグループに特化したものなどがあります。組入比率が高く、投信の基準価額への影響度が大きい銘柄の株価上昇・下落を見越して売買するのはNGです。一方、TOPIX連動型など、銘柄の分散が十分に効いている投信は規制の対象となりません。

 最後に、個人投資家が自分の身や資産を守るために普段から注意すべきポイントを聞きました。

「いい話・悪い話に飛びつかないことです。『株価が上がる・下がる』と聞くと、すぐに売買したくなる気持ちは分かります。しかし、いったん冷静になって、その情報が未公表の重要事実ではないかを確認することが重要です。

 会社関係者が社内で情報を聞いた場合は、管理部門に内容を確認すると確実です。一方、上場企業で働く知人などから重要事実の可能性がある情報を聞いた場合は、COMLECにご質問いただけたらと思います」

 インサイダー取引は、個人投資家にも意外と身近なもの。インサイダー取引規制に違反して罰則や社会的制裁を受ければ、築いた資産の多くや人間関係まで失いかねません。少しでも不安に思ったら確認を行い、健全に市場と付き合っていきましょう。

本記事は2026年8月18日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。