(2)不正流出を防ぐ
セキュリティと監督の規制
2つめは、不正アクセスなどハッキングによる暗号資産の流出から投資家の資産を守り、取引の信頼性を高めるための規制だ。
法改正後の国内の暗号資産の取引会社は、証券会社など第一種金融商品取引業に相当する規制が適用される。それに伴い、経営の健全性を保つための自己資本規制比率や、万が一の不正流出に備える責任準備金の積み立てなどが義務化される見込みだ。
さらに森さんが注目するのは、取引会社が使用するウォレット*ソフトウェアなど外部のシステム提供企業に対しても、規制が設けられた点だ。
*暗号資産をデジタル上で管理する仕組み。
「従来の金商法では、システム提供会社には行政の直接的な監督権限はありませんでした。しかし、新制度には必要な場合に行政が直接、是正措置を命じることができる内容も盛り込まれています」
投資家が安心して利用できる環境を整えようとする、国の強い姿勢が感じられる。
(3)公正な取引を守る
インサイダー取引規制
3つめは、誰もが平等に取引できる環境を守るための規制だ。株式投資の世界ではお馴染みのルールだが、今後は暗号資産取引でもインサイダー取引規制が適用される。
具体的には、以下のような「未公表の重要事実」を事前に知る関係者による売買が厳しく禁止される。
● 中央集権型暗号資産の発行者の破産や、重大なシステム障害・セキュリティリスク
● 国内取引会社における、暗号資産の「新規上場」や「取扱廃止」の情報
● 市場価格に大きな影響を与える「大口取引」に関する情報 など
売買価格なども公表へ
コスト増で業界再編が進む
2027年に予定される厳格な金商法への移行は、国内の暗号資産取引会社にとって重いコスト負担となる。森さんは「現在、金融庁登録の取引会社は約30社ありますが、実はその9割が赤字といわれています。これを機に、事業者の撤退や合併、他業種からの参入も含めた業界再編が起こる可能性があります」と分析する。
投資家としては、自分が利用している取引会社が他社へ吸収合併されたり、事業移管が行われたりする可能性を考慮し、過渡期の動きを冷静に見守る必要がありそうだ。
既存の取引会社に対しては、事業を継続しながら新法への対応を進められるよう、一定の「経過措置(猶予期間)」が設けられている。具体的には、法律の施行日から6カ月間は「みなし業者」として、新たな登録を受けずに引き続き業務を行うことができる。さらに、その6カ月間の猶予期間中に金商法の登録申請を行った既存の取引会社については、国からの審査結果が下るまで、最長で2年間は業務を継続することが可能だ。
ただし、猶予期間中であっても、顧客情報の管理やインサイダー取引規制といった新しいルールは即座に適用される。
さらに業界再編を後押ししそうなのが、取引会社に課される「取引情報等の公表義務」。暗号資産の銘柄ごとに、毎日の売買高や最終価格などを公表することが義務付けられるのだ。
日々のデータ開示のためにコストが発生するだけでなく、「どの取引会社にどれだけの取引が集まっているのか」が誰の目にも明らかになる。毎日の取引規模が比較されるため、サービス力の高い人気の取引会社へ顧客が移動しやすく、結果として業界の適正化を促す引き金となりそうだ。
今回の金商法改正で暗号資産投資への信頼性が高まり、投資への心理的ハードルはぐっと下がることが期待される。ただし、森さんは次のように釘を刺す。
「暗号資産がリスクの高い商品であることに変わりはありません。『国がお墨付きを与えたわけではない』という点は、金融庁の審議会でも繰り返し強調されています」
今回の法改正で暗号資産投資への信頼性が高まることは間違いないが、暗号資産特有の激しい価格変動などのリスクについては常に意識する必要があるだろう。
本記事は2026年7月20日時点で知りうる情報を元に作成しております。本記事、本記事に登場する情報元を利用してのいかなる損害等について出版社、取材・制作協力者は一切の責任を負いません。投資は自己責任において行ってください。